学会概要

 会長ご挨拶 

公益事業学会会長 水谷文俊 神戸大学大学院経営学研究科 教授

公益事業学会会長 水谷 文俊
(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

 

公益事業というのは、電気・ガス等のエネルギー供給事業、上下水道事業、鉄道・バス等の交通事業、郵便・通信・放送等の情報通信事業が含まれ、国民の日常生活に必要不可欠なサービスとなっています。そして、公益事業は、自然独占性、公共財あるいは外部性の存在や必需性の観点から、伝統的に価格規制や市場における安定的な供給を意図した規制が課せられてきました。

 

しかし、伝統的な規制は、サービス供給の非効率性や技術革新の停滞、そして高いサービス価格による消費者の負担等の問題を生じさせているという批判も出てきました。このような問題の解決のために、公益事業においては、規制緩和や競争の導入が行われてきました。実際、1980年から90年代にかけて、英米を先駆けとして、規制改革や公企業の民営化が実施されてきました。わが国においても、1980年代後半の日本電信電話公社や日本国有鉄道の民営化を皮切りに情報通信・航空分野の規制緩和、90年代の電力・ガス分野における小売の部分自由化、ヤードスティック規制等のインセンティブ規制の導入等が行われてきました。そして、近年ではより競争を重視する政策に変わってきました。たとえば、サービス供給とインフラマネジメントを分離するいわゆる上下分離政策や、水道事業におけるコンセッション方式の導入等、がこのような例と言えるでしょう。

 

さらに最近のテクノロジーの著しい進展も無視できません。情報関連技術の進展により、ビッグデータを処理する技術が飛躍的に向上しました。その結果、消費者の行動をより正確かつ迅速に分析することが可能となり、さらにAI技術を活用することで効率的な事業運営にも寄与するが期待されています。また、鉄道、バス、タクシー、航空等、異なる交通手段による移動を一つのサービスに統合し、経路検索から料金支払いまでをシームレスに繋ぐというMaaS (Mobility as a Service)に代表されるような、ITを活用した新たなプラットフォーム・ビジネスも出現しています。さらに、地球環境問題、パンデミックや自然災害に対するレジリエンス政策も、公益事業の新たな課題として注目されています。このように、公益事業に関連する新たな課題が続々と出てきているのが最近の状況です。

 

公益事業学会は1949年1月に設立され、2019年で70周年を迎えました。本学会は、公益事業にとって重要な課題を、学術的に探求する専門家の集まりです。学会に所属する研究者の専門分野も、経済学、経営学、法学、工学など多岐にわたっています。また、会員も大学に所属する者だけではなく、行政や企業等で活躍する実務家も数多く所属しております。このような多様な会員による議論を展開することで、より現実味のある政策や事業経営を実現することができると考えます。そして、昨年度は、学会創立70周年を記念して、『公益事業の変容:持続可能性を超えて』(関西学院大学出版会)を出版することができました。公益事業という重要な産業を研究する学会にご興味のある皆様方には是非とも学会にご参加とご支援をいただければと思います。