2022年度公益事業学会賞
該当作なし
2022年度公益事業奨励賞
『JR地方交通線の輸送需要に関する考察−多変量解析による検討−』
那須野育大(公益事業研究 第74巻第1号、2022年)
地方鉄道の存廃が各地で問題となっている中、JR線の輸送需要を線区別に分析する研究は興味深い。また2010年代半ばからJR各社が公表した資料を活用したことの意義は大きい。特にこの論文が優れていると認められる点は、第一に、地方路線の再生の可能性を定量的かつ詳細に分析し、需要に与える要因を重回帰分析で行うにとどまらず、クラスター分析を用いて線区の特徴をより詳細に分析している点である。第二に、先行研究の多くの需要分析が企業ベースで行われてきていたが、本研究では、路線区ベースでのデータを用いて分析を行い、よりミクロな分析を行っている点である。第三に、路線をグループに分類した中から、現実に即した線区の改善の可能性を明示しており、今後の鉄道路線のあり方を考えるうえで有益な示唆を与えることができている点である。しかし、課題もある。まず、この論文は、JR地方交通線89線区を分析の対象としているが、これらの路線区そのものの説明がない。著者は他の研究の紹介や路線区の表等で路線区の紹介はしたつもりかもしれないが、より直接的な説明が必要である。また、クラスター分析方法や、整理されたグループの特徴の説明が十分でないという課題が残されている。さらに、この論文は、労作ではあるが、全体として説明の羅列に終わっている印象を受ける。確かに全体像の説明はあるが、それは調査結果の説明に過ぎないとも言え、そこから先の分析結果の検討が希薄だからである。しかし、このような課題は、むしろ今後の著者の研究の深化の過程において解決できる事柄であり、本論文自体の価値を損なうものではない。